日本のシェヘラザードここに現る、今日は何のお話ですか?
岩井志麻子さんの怪談絵巻ということで読んでみた。
怪談と言いつつも全然怖くなかった。
前作の「ぼっけえ きょうてえ」のほうが人間の怖さを感じて
そちらのほうが怪談だった。
この作品は風呂屋の湯女お藤さんが語る物語で構成される。
それは現実味を帯びた物語。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。
いや、本当はそこではない。
その物語はその本人の告白と思わせるようであり、そうではない。
だいたい風呂屋で働く女は身元を隠す。
本当のことは語らない。
嘘で塗り固めた人生。
だから名前や年だけでなく生い立ちだって嘘である。
そんな女から語られる過去とはどんなものだろう?
しかしそこを追求するのは野暮なこと。
そういうこともあったか。
そうか、お前も苦労したんだな。
などと頷いておけばいい。
語られる話にうなづいているだけでいい。
そんな会話もある.
ここでは余計な詮索はしない。
それどころか、淡々と次の話を聞かせてほしい。
王様がシェヘラザードに次の話をどんどん語ってもらったように。
いや、ゆっくりでいい。
眠ってしまうまで、ゆっくり訥々と話してほしい。
そんなことを思わせる小説だった。
こんな物語の展開、すごく好き。